
佐藤エネルギーリサーチ株式会社で働く小田桐直子さんに、住宅や建築のエネルギーについてお聞きしています。
その1では、小田桐さんの業務内容や、どんな思いで仕事に取り組んでいるのか等をお伺いしました。
その1 建物だけでなく、暮らしにまで踏み込むコンサルティングをするように・・・
その2では、身近なエネルギーに関するお話を具体的な資料を拝見しながら伺うことができました。エネルギーについて、ぐっと身近に感じることができるお話です。
その2 エネルギーから暮らしを見る
1年間の電気、ガスの使用量、並べて比べて見ると・・・
さくら組 以下さ)私たち設計者は、エネルギーを意識して建物を作ることの大事さは分かっていても、その数字と実際の生活がなかなかつながらないのです。いい機会なので、なにかエネルギーの数字と自分の生活が関連して感じられるような見方を教えてくれませんか?
小田桐 以下小)そうですね。例えば・・・。
図1・2は、私を含めた知り合いの8世帯の10月から9月までの1年間の電力の使用量とガスの使用量を月ごとに示しています。
少ない人は1~2人暮らしの人で、日中家に居ない人です。こうやって見ると、世帯ごとに使用量って違いますよね。


さ)赤線の人は、冬にガスがすごく多いですね?
小)これは暖房にもガスを使っている人ですね。
さ)水色の1番少ない人は?夏も冬も増えたり減ったりしてないけど???
小)この世帯は1人暮らしで、たぶんあまり家で生活していない人です。
一人暮らしで夜しか家にいないとこんな感じになりますね。たぶんこの人は炊飯器もないとか、、そんな感じです。
まあこんな風に、検針票のデータを見ると自分の生活がふりかえることができてとても面白いんです。しかも複数の世帯でまとめて比較して、意見交換してみると面白いですよ。
さらに、知り合い同士だと性格やライフスタイルが想像できるので盛り上がりますね。
もう1つ検針票データをつかったライフスタイルの見方を教えますね。
図3では、まず1年間の電気の検針票データを並べて、1番少ないところで区切り(図の緑色の線)ます。それよりも増えている部分が冷房だったり暖房だったり、、という見方ができます。

番少ない5月は暖冷房を使っていませんから、5月の電気代は冷蔵庫や照明、TVなど家電分と言えます。
これらは季節を問わずに使うものなので、1年間共通と考えます。すると、これより増えた分は冷房か暖房になるという考え方です。
夏に比べると冬は気温が低いので冷蔵庫にかかる電気代は減るなど、多少の違いはありますので、これは本当にざっくりした見方の1つですけどね。

色で分けると図4のようになり、
「うちは暖房が多いんだね、、とか冷房が多いのか」などが分かってきます。
検針票のデータだけでも結構分かるものがあります。
図5は小田桐家のデータです。
ガスと電気を合わせるために1次エネルギーに換算して合わせていますが、こんな感じになります。

だいたい日本の平均と同じですが、冷房が少し多いですね。埼玉は暑いので夜に冷房をしているからです。
夫が冷房大好き人間ですし、、、(言い訳)
さ)同感! 埼玉暑いですよね!!
この見方をすれば、細かいところはさておき、我が家は冷房依存型なのか、暖房依存型なのか、両方なのかなど、ざっくり分かりますね。
小)そうですね。「あまり冷房は使っていません!」と言っていても、実は冷房代がかかっている家は、現地を見てみると南に庇のない大きな窓があって、時間は短くても昼間の暑い時間帯に高出力で冷房を使っているというようなことも考えられます。
あと「暖房はあまり使いません!」という人は、エアコンで暖房するのが嫌いな人が多くて、エアコン暖房は使っていなくても、ホットカーペットや電気ストーブ、放射暖房なんかを使っている場合があります。その場合は電気代が結構かかっている場合もあります。
やはりヒアリングだけでなく、データも確認した方がいい提案に繋がると思います。
東京電力のでんき家計簿(※)というものに登録すると、毎月のデータの閲覧だけでなく、あなたの家は家族構成や同じ広さの家に比べて多いですよとか少ないといった、、とかアドバイスもしてくれます。また、1万円くらいで主幹(家全体)の電気使用量が測れる電力計もありますよ。
熱環境やエネルギーについての感覚を磨く?!
さ)どんな熱環境を求めていて、どんなライフスタイルを送るのかということを、住まい手の人ときちんとディスカッションしないといけないな、、と感じています。
でも感覚的なものなので、共有するのがなかなか難しいですよね。
小)みなさん5人がそれぞれ自分の住まいを測って比較することを通して、感覚を磨くということも重要ではないですか? 温度だけでなく、家の電力も計測してみるととても面白いですよ。
我が家はさいたま市のモニターとして電力計を設置してもらい、詳細なデータを計測していた時期があります。これはその計測データを活用しながら改善をしていった結果を報告した時の資料です。
賃貸の我が家には北側の窓に網戸がついてなかったので、まず、網戸を買って南北に風が抜けるようにしました。
それから、一応屋根に断熱材が入っているということではありましたが、それにしても暑いので、屋根に散水をしました。その結果天井の表面温度は2℃くらい下がりました。


さ)2℃下がると全然違いますね。
小)冬対策としては、単板ガラスの窓が大きいので、DIYで断熱窓を作りました。表面温度は4℃くらい変わりますね。



さ)本当だ、だいぶ違いますね。
小)図6のように、こういう工夫をしたことで夏はこのくらい冷房エネルギーが下がりました、冬はこれくらいというデータを報告しました。
また、冷蔵庫だけも測っていたので、少し詳しく調べてみました。
冷え具合が(強)・(中)・(弱)とありますよね。それぞれどの位違うのか調べてみました。
(強)から(中)にすると、全体的に下がりつつ、ときどきフル稼働して電気がぴゅーと上がる感じになり、平均としては減らせます。
それが1カ月になると91Wから59Wまで減らせます。


さ)電気代は安くなったけど、ビールの冷え具合はどうなるの(笑)
小)いいところに気づきましたね(笑)まさにそれをやりました!
実は(中)にすると庫内の気温が高くなるのでビールがぬるくなったのです・・・。
そこで色々調べてみると、場所によって9~0℃と温度が違い、特に扉の棚が一番冷えないことが分かりました。だからうちは(中)にして、ビールはチルド室にいれることにしました。
一方、ハムなどは10℃でもいいと書いてありましたから、扉に入れています。
まあこれで月500円程は電気代が変わりますよ!


さ)考えたことなかった!そうですよね。それほど冷やさなくていいものもありますよね。
上手に仕訳すれば(中)運転でも大丈夫なのですね・・。なるほど~。面白い!!!
小)あとは家庭のエネルギーの中では、「その他」という分類が多いです。
それが何かというと、図7を見ると、冷蔵庫は常時電力を使っていますが、ときどきコンプレッサーが稼働し大きくなります。朝は電子レンジやトースター、給湯ポット、夕食時は炊飯器とかが使っています。
ただですね、注目してほしいのは、寝ている間も85W使っているということです。
この寝ている間にも使っている電力を「ベース電力」といいます。

さ)85Wって結構多いですね。
小)我家は多分少ない方です。きっと皆さんのお宅はもっと多いと思いますよ。
小学校のコンサルティングでも同様ですが、私は今、この誰も起きていない時も含めて、24時間365日動いている「ベース電力」に注目しています。暖冷房が多少増えても使用時間や季節が限られています。そこをすごく努力して減らすよりも、この「ベース電力」を何とかした方がいいケースもあるのではないかと思っています。
寝ている間も使っている「ベース電力」を最小限に!!
さ)85Wで、具体的にはどんなものが動いているのでしょう。
小)我が家では、この85Wの正体を探しました。
まずはお風呂の換気扇。お風呂の窓が開かないので、夜中換気扇をつけています。
電話とかパソコンのスリープモードは5Wです。あとは電気ポットなど。
そこでお風呂の換気扇を(中)にして、夜はポットを止めると、85Wから55Wになりました。


さ)ちなみに電気代って毎月どのくらいですか?
小)だいたい3,000円程度で、冬が6,000~7,000円程度です。
基本的に昼間は家にいないというライフスタイルです。
このベース電力は世帯ごとに生じるものなので、実は核家族が増えるというのはエネルギー的には良くなくって、なるべくまとまって暮らしていくということが有効になります。
さ)でもそれはまた別に問題も(笑い)
小)まあそうなのですが、
一般的には、暖冷房や給湯に使うエネルギーを削減しましょう、、ということになりますが、
現状としては、このベース電力の部分が増えてきているんですよね。
何とかしたいと思っています。
さ)確かに家にあるものは何でもコンセントが必要になってきましたよね・・・。
なるほど、電気の使用量を測るのも面白そうですね!
小)コンサルティングの現場でも、実態を知るにはやはり生データをみるというのが大事です。
学校の調査を続けていますが、アンケート調査では暖房の設定温度が18℃とか20℃と適切になっているのですが、データを調べてみると、アンケートの回答よりも3~4℃高いのです。
なんでだろう・・・。とデータを1日ごとに丁寧に見ていたら、ある日突然ガクンと上がっている日がありました。
学校のスケジュールと照らし合わせてみたら、保護者面談の日だったんです(笑)
保護者が来ると言うことで設定温度を上げて、そのまま戻してないことがわかったのです。
その他にも設定温度が高くなる日は、研究発表会の日です。お客さんがたくさん来るから、おもてなしのために普段より温かくしているのですよね。
そういうことが分かったので、エアコンに設定温度リセット機能をつけたらどうか、と設計者に提案しています。設定温度を変えても翌朝になったらいつもの設定に戻るようにしておけば、無駄使いがなくなると考えたからです。その代わり、寒かったら設定温度を上げてもいいよと言っています。
臨機応変に対応出来た方が、現場にとっては嬉しいと思うのです。
こういったことも、計測したデータを学校の生活実態と照らし合わせて見てみるということをしないと気づけないことだと思っています。
さ)いや、、計測データって面白いですね。
というか、データを面白く見せられる人なのでしょうね。
数字だけでなくてどう考えればいいかなど、実態と関連づけて話してくれるから面白かったです。ぜひ、我々も測ってみましょうよ~。電気代も集めたりして・・・
小)ぜひみんなでやってみてください。
少なさを競うということではなく、それぞれのデータから生活スタイルを想像するという方が面白いと思います。
さ)そうですね!やってみたいです。その時には是非ゲスト講師に!
今日はありがとうございました。
私たちにとっては苦手分野のお話でしたが、話の面白さにぐいぐい引き込まれて、あっという間の2時間でした。
数字だけ見せられると???ですが、暮らしの中で事例を見せてもらえたり、グラフの見せ方次第では、誰もがとっても身近に感じられる面白いテーマなのだと、改めて感じました。
今回の話に刺激を受けて、5人の仕事場の室温比較など、やってみたいなぁ。。と思っています。
小田桐さん、長い時間、そしてたくさんの資料を提供していただき、ありがとうございました!
※ 東京電力の電気家計簿についてはこちらから ⇒ でんき家計簿