女性の大工さん

今回は、大工修行中の女性に色々とお話を伺いました。


座談会は、さくら組のメンバーである廣谷の仕事場であるみっつデザイン研究所で行いました。

6月に新しい事務所に移ったのですが、このリフォーム工事を担当してくれたのが、今回のゲストである足立区にある西本工務店に勤務する関口加奈子さんです。

 

一級建築士でもある30代中盤の関口さん、

女性が大工として働くことにとどまらず、現在の木造住宅事情が大工の修行を難しくしていることなど、色々な話をする機会となりました。

 

まずは、大工になった経緯、現在の仕事の内容など

さくら組(以下さ):どうして大工さんになろうと思ったのですか?

関口さん(以下関):西本工務店に就職する前は、複数の設計事務所で働いたり、都市計画を学んだりしていました。色々やる中で、どうしても自分の手で物を作りたい!という思いが強くなって、今の仕事に就くようになりました。当初は設計担当で入社して、現場に出たいと申し出て、現場監督をやるようになり、さらに今は大工の修行も初めて4年目です。


さ:設計して、発注して、現場で作って、全部できるのですね。

関:そうですね。でも今は大工の仕事が100%ではありません。

西本工務店には社長のほかに男性の大工が5人社員で働いていています。まずは彼らの仕事場を確保して、それでも空いた現場に私が出させてもらっているという状況です。現在の仕事の割合的には、設計や現場管理の仕事を半分、大工仕事を半分といった状態です。


さ:関口さんの場合は、設計も現場管理できるとなると、やはり兼任になりますね。

関:そうですね。会社で女性は私一人なので、エンドユーザーさんがいる仕事の場合は、打ち合わせなどに私が出向くと安心されたりするので、現場監督も重要な仕事の一つになっています。

また、大工は修行中なので、大工としてのお給料だけでは生活ができない、、という現実的な問題もあります。今は兼任させてもらうことできちんとした生活ができています。


さ:現在は一人前の大工になるための、どのくらいの段階ですか?

関:知れば知るほど、年配大工さんの話を聞けば聞くほど、大工の仕事は奥が深く、、、今は先が見えない手探り状態ですが、「一人で現場に出られる」ということであれば、3/10くらいの段階でしょうか。お話したように、大工の仕事と現場管理を半々くらいでやっているので、4年で1/3弱のあたりです。


大工の技術を学ぶ学校

さ:現場管理や設計をしながらの日々の中で、大工になるための修行はどんな風にしているのですか?

関口さんが作った四方鎌継の仕口。
関口さんが作った四方鎌継の仕口。

関:私は大工の仕事に専念できるわけではないので、週末に社会人向けの大工の学校(蕨戸田建設高等職業訓練校建築科、)に通っています。

今は3年コースの3年目です。


これは過去に作った仕口(※1)で四方鎌継(※2)を少し複雑にしたものです。柱を継ぐ時に使うのですが、上の方に抜けないように中で斜めになっています。



それからこの写真は同じく学校で、丸太から梁を作る練習もします。

1年目はノミ(鑿)やカンナ(鉋)のとぎ方や扱い方を習って、2年目以降はそれらを使って継ぎ手や仕口を作ったり、実際の建物の数分の1のスケールの小屋を全部手刻み(※3)で作ったりする練習をしています。近隣にある同様の学校4校合同での技能競技会もあって、3時間で椅子を作り上げるといったようなこともします。今年は20人中2位でした!!悔しい!!

丸太から作った梁。太鼓梁といいます。 
丸太から作った梁。太鼓梁といいます。 
授業の様子。熟練の大工さんが指導してくれるそうです。
授業の様子。熟練の大工さんが指導してくれるそうです。

2つの材木をつなぐ仕口と大工さんの代表的な道具ノミ。(上の2枚を含めて写真提供:関口さん)
2つの材木をつなぐ仕口と大工さんの代表的な道具ノミ。(上の2枚を含めて写真提供:関口さん)

さ: 学校の様子は?女子はいるのですか。

関: 女子は私一人です。入学当時は他にも女性がいましたが、みんな辞めていってしまいました、、、。

私は昔ながらの大工の技である手刻みの技術を学びたいと、目的を持って入学しているので続いていますが、十代で入学してくる子たちは、続かない場合が多いです。残るのは1/3くらいでしょうか。

 

なによりこの学校で習う技術を活かす現場が少ないということが、学校にとっても生徒にとっても、大きなジレンマのようです。

 

学校の意図としては、日本の大工の技術を残すという意味でこういった技術を教えているのですが、実際の現場では、ノミやカンナを使ってこのような継ぎ手や仕口を作る場面は、残念ながらあまりありません。

若い子の中には「なんで丸ノコ使ってはいけないのですか?」といった質問をしている子もいます。電動工具を使うことが悪いことではないのですが、道具の使い方、手入れの仕方を学ぶ意味を十分に理解できていないのでは?と思うことがあります。

若い子の中には、実際に日々働く現場と学校の主旨が繋がっていないのかもしれません。

 

「ノミやカンナを使わなくても家は建つ」という現実

さ:今はほとんど工場でプレカット(※)された材が入ってくるので、量産型の住宅では、いわゆる大工道具を使うことも少ないのでしょうね。

関:プレカット材しかり、メーカーの既成品は全て加工されてきますから、たぶん寸法が測れて、木が切れれば家は建ちます。しかも現在は、替刃式の鉋や鑿や鋸があり、手道具さえ使い捨て状態です。そう考えると、大工って何だろう、大工の技術とは、、、と考えてしまうことがあります。

 

親方が良く言っているのですが、親方は現場で何かしらの問題が出てきても、解決方法が何通りも浮かぶそうです。一方、私はまだまだ何通りも思い浮かびません。それは経験に基づく知識と知恵によるものだと思うのですが、既成品だけを使っていると、問題は少なくなるかもしれないし、安く早く仕事ができるかもしれませんが、大工としての技術や知識は身につかないと思います。


さ:そういった状況が起こっている原因の1つはやはり工事費の問題でしょうか?

関:そうですね。工事費が一番大きいと思います。その次に、工期。なので、プレカット・既製品・工場加工と併用していかないと、工期に間に合わず、予算も間に合わない。


さ:我々の場合は建具の枠まで設計するけれども、多くの現場では枠材ですら既成品を使うことも多いようですね。たとえ枠の図面を書いても、プレカット(※4)工場の機械で加工して現場に持ちこむことも多いので、ますます大工さんが自分のノミやカンナを使う機会は減りますね。

人の手で全部作るとなると、人によってできるものが違ってしまうという問題が生じますよね。

そういう意味では、一定の品質のものを提供できるプレカットのような技術も必要ですが、ノミやカンナを使う技術が残せないのは問題ですね。


関:本当にそう思います。


さ:大工育成塾(※5)が出来てから、ずいぶん現場に若い子が増えたような気がしますが、今は工務店もお給料を払いながら新人を育てるということも難しい時代なのかもしれませんね。

大工育成塾など、大工の養成に補助金が出ているのであれば、仕口1つにいくらという補助金があってもいいですよね。技術者を育てても肝心の仕事先がなかったら大工の技は伝承されないですものね。


関・さ: それはいいアイデア!


さ: 工事費の問題だけでなく、設計側にも課題があるのでは?

柱や梁が全部をボードで隠してしまうような家の場合は「大工さんが一生けん命手で刻みますので、プラス100万円です、、」といってもお客さんは納得しないでしょう。でも化粧で柱や梁が見えてきて、仕口を美しく見せることができるのであれば、お客さんにも納得してもらえるかも。つまり、大工の技が必要な場所を作るという設計者としても技量も求められているのかと思います。


関:うちの会社では、たとえ見えないところであっても丁寧に仕事をすることをとても大事にしています。それは、手を抜いた仕事をしていると、そいういう仕事が身についてしまうという意味で、持っている技術は日々使っていかないと、水準は保てないということだと思っています。技術を伝承するには、日々の仕事の中で続けていかないと難しいのだと感じています。


設計と大工。どちらがいい?

さ:ずばり聞きますが、設計と大工、両方を経験していますが、どっちがいいですか?

みっつデザインの事務所リフォーム現場で働く関口さんの様子。後ろで見ているのが社長兼親方西本さん。
みっつデザインの事務所リフォーム現場で働く関口さんの様子。後ろで見ているのが社長兼親方西本さん。

関:断然、大工です! 


大工は、働くとちゃんと身体が疲れて、物ができあがっていく、、という満足感が得られます。また、設計をしていた時の働き方と大きく違うのは時間の使い方です。

大工は怪我をしてはおしまいですから、どんなに終わっていなくても、時間がくれば仕事を終え、ちゃんと寝るということが大事です。それはもうすごくはっきりと親方から指導されています。


さ:設計と大工、両方やりたいと思いませんか。

関:昔は両方やりたいと思っていました。

自分で考えて自分で作るというのが理想の形と思いましたが、今は大工1本がいいです。


さ:それはなぜ?

関:作る方もやると、作れるものしか書かなくなるような気がするからです。

建築は施主のお金で家をつくります。芸術と違って予算があります。色々と考えても、人工(にんく)がかかるな、とか、これをやるとお金かかるな、、と思うと、やはりお仕事の面で言うと、安全な方に流れてしまうような気がします。設計と施工は使う感性や智恵が異なるような気がするので、分けた方がいいと思うようになりました。


さ:なるほどね~。分かる気がします。

ところで、ご両親は関口さんが大工という仕事をすることに対しては? 

関:そうですね。怪我を心配して最初は大反対でした。

1級建築士とったのになんで?と言われましたが、現在は応援してくれています。


女性だけでどこまでできるか挑戦したい!

さ:将来的には、どんな風になっていきたいのでしょう。

関:たくさんの理想をもって大工を目指していますが、色々な現実も見えてきています。

何よりも1番大きいのは、男性との力の違いです。

私は3×6版(910mm×1820mmの大きさのこと)の石膏ボードを一人で天井に張るのが精一杯。強化石膏ボードの15mmになると一人では手に負えません。そのあたりは、越えられない壁を感じたりしています。


さ:高いところは大丈夫なの?

関:はい。全然平気です。

ただ、この前初めて建て方に参加して棟まで登ってみました。高いところは平気ですが、これで重いものをもってすいすい歩くのはさすがにまだできなかったです。

男性と比べるとできないこともありますが、女性ならではの強みも感じています。たとえば、作業員として私が行くと、お客さんや周辺の人がとても安心してくださるように感じています。


さ:それは分かる!現場も綺麗そうだしね。

関:ですので、家1軒を一人で作るのは無理ですが、将来的にはマンションなどのリフォーム現場などを一人で担当できるようになりたいと思っています。


さ:それはいいですね。

マンションであれば、搬入の制約があるので材の大きさも小さくなるから、力の問題も少なくなりそうですね。またマンションのリフォームの場合は、居ながら改修の場合も多いから、女性が現場で働いてくれるとお施主さんは安心すると思います。



さ:将来的には、女性の大工さんや棟梁とかが普通になってくると思いますか?

関:増えてくると思います。

ただし、男性、女性のできることの差は変えられませんので、まったく同じようにはできないとは思います。

たとえば、建て方などの時には、女性だけでは無理なので、男の人とうまく連携してやるといったようなことが必要だと思います。


さ:2人ペアで働くという方法もあるのでは?

男性にはない感性や繊細さがあるはずだから、2人でペアになって働くことで力の問題を解決すれば、無敵かもしませんね(笑)


さ:これは大工ということだけでなく、日本の職業観にも関わっていて、今までは男性しかできない、女性しかできないといった職業があったけれども、これからの時代は、どんな仕事であっても自由に誰でもできるような時代になるでしょうね


関:職業観、それは感じます。 

女性の私が現場で働いていると「えらいわねー」と言われることが多くあります。私は普通に仕事でやっているだけのに、、、といつも感じています。


さ:女性でも家1軒をやれている大工さんも実際にいるしね。鉄筋やさん、鳶さんなど、現場で働く女性も確実に増えているしね。


関:うちの親方からは、私の他に、電気、設備など女性の職人を集めて、女性だけの施工集団を作りたいと言われています。名前は、そのままずばり「女子組」だそうです(笑)名前はともかくとして、私もそうできたらいいなと思っています。


大工さんというイメージには程遠い、かわいらしい洋服を着て来所。

聞けば、いつもは行きも帰りも作業着で、作業着のまま電車に乗って現場に向かうこともあるそうです。せっかく買った普段着の洋服もほとんど着る機会がないので、現場に行かない日くらいは、、、と私服で来てくれました。


お忙しい中、わざわざお越しいただきありがとうございました。


インタビューの終了後も、お昼のピザを食べながら業界の話、女性が働くことなど色々な話しができました。
インタビューの終了後も、お昼のピザを食べながら業界の話、女性が働くことなど色々な話しができました。


最後に、インタビューの中に出てきた用語をいくつか解説。

※1 仕口:2つの木材を直角あるいは斜めに接合しる方法。また,その部分。接合するために切り刻んだ枘(ほぞ)などをいうこともある。 → 継ぎ手ともいう。(三省堂 大辞林より)


※2 四方鎌:仕口、継手の1種。 分かりやすい動画はこちら

   → https://www.youtube.com/watch?v=42AdZGU5ieU


※3 手刻み:木材(柱や梁)に墨で印を付け、鋸(のこぎり)や鉋(かんな)や鑿(のみ)を使い加工していく伝統的な木材加工方法のこと。

 

※4 プレカット:建築用の材料を事前に工場で加工しておくことを言うが、現在ではコンピュターで入力したデータに基づいて、専用の機械で仕口の加工をして現場に搬入することまでを意味して使われる場合が多い。ただしプレカットといっても、複雑な形状の場合は機械では対応できないので、人の手で加工されていることも多々ある。

あらかじめ工場で加工済みのものを現場で組み立てることによって、工期の短縮、建築現場の資材置き場や作業スペースの縮小、大工の技量によらない均質な加工などのメリットが得られるので、現在の木造住宅建築においてプレカットは幅広く用いられている。

 

※大工育成塾:伝統的木造住宅の振興のため大工技能士の育成に取り組む一般社団法人で、運営に対しては国土交通省より補助金が交付されている。

詳しくは、http://www.daiku.or.jp/top.html