近年は断熱や構造強度、メンテナンス対策等について一定の条件を満たした住宅は補助金を受けたり税の特例措置等が受けられるようになりました。次世代に残る良質な住宅を普及させる目的で法律が作られそれに伴って生まれた制度で、簡単にいえば家を長持ちさせて廃棄物を減らし、建替えにかかる費用も減らして環境に配慮した暮らしをしようという国の提案です。平成12年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(通称:品確法)」、その柱の一つである「住宅性能表示制度」には10の性能表示事項があり、このうちのひとつが温熱環境、すなわち省エネルギー対策等級(以下『省エネ等級』とする)でした。平成25年からは「エネルギーの使用の合理化に関する建築主等及び特定建築物の所有者の判断の基準」として新たな基準が作られています。
平成11年以降の考え方の基本である断熱レベル『省エネ等級』は2から4までの3段階、等級が高いほど建物の断熱性が上がり暖冷房費を節約できるというもので、まずこの『省エネ等級』とはどのように判定されてきたかをご説明します。
【省エネ等級の判定方法】
1.建物の熱損失係数(Q値)を求め、
地域区分に応じた基準値と比較して等級を判定する。
2.夏期日射取得係数(μ値)を求め、
地域区分に応じた基準値と比較して等級を判定する。
3.結露防止対策に合わせて等級を判定する。
4.1,2,3のうち、小さいほうを省エネルギー対策等級とする。
さて、ここで“熱損失係数(Q値)”という用語が出てきました。この判定基準によれば1〜3のどれかを満たせば省エネ等級が獲得できるわけですが、全部を一度に取り上げると少し複雑かもしれないので、このコラムではまず”熱損失係数(Q値)”による判定について取り上げます。
Q値とは建物の断熱程度を表す指標で単位は W/m2h℃、室内外の気温差が1℃ある状況が1時間続いたとき、床面積1㎡あたりに建物から逃げる熱量を示しています。つまりQ値が小さいほど逃げる熱量が少ない=断熱がよい建物といえます。省エネ等級を獲得するためには2種類の方法があり、下記AまたはBどちらかに適合すればOKです。
A:性能基準…
熱損失係数(Q値)において基準値に適合すること
B:仕様基準…
各部位(屋根又は天井、壁、床、基礎、開口部)の断熱性能において基準値に適合すること
最も高いレベルの『省エネ等級4』では上記A、Bのうち、Aの場合はQ値を【表1】にあげる数値以下となるようにせよ、としています。表中の[地域の区分]は詳しく定められていますが、簡単にいえば I地域=北海道(寒)でVI地域=沖縄(暑)です。表を見るとI地域の数値が小さくなっています。つまり寒いところはよりたくさん断熱をしてね、というわけです。
【表1】 省エネ等級4におけるA [性能基準] …Q値における基準値 単位:W/m2h℃
地域の区分 |
I |
II |
III |
IV |
V |
VI |
一戸建住宅 (Kcal換算値) |
1.6 (1.376) |
1.9 (1.634) |
2.4 (2.064) |
2.7 (2.322) |
2.7 (2.322) |
3.7 (3.182) |
しかしそういわれても、設計した建物のQ値は簡単にはわかりませんよね。そこで国交省はもうひとつ考えやすい方法として、壁や天井等の各部位に【表2】の厚みの断熱材を入れればいいですよ(実際は熱抵抗値が指標)というBを設けました。鉄筋コンクリート造や木造、鉄骨造など構造によってそれぞれ指標がありますが、ここでは木造の住宅について述べます。
【表2】B [仕様基準] …断熱材の厚さはGW24-32K、 押出法ポリスチレンフォーム1種相当(ex.スタイロIB) { }内は枠組壁工法で必要厚さが異なる場合のみ表記、単位:mm
↓部位/地域の区分→ |
I |
II |
III |
IV |
V |
VI |
屋根 または天井(どちらか) |
265 230 |
185 160 |
185 160 |
185 160 |
185 160 |
185 160 |
壁 |
135 { 145 } |
90 { 95 } |
90 { 95 } |
90 { 95 } |
90 { 95 } |
90 { 95 } |
外気に接する床(ex.ピロティ状) |
210 { 170 } |
210 { 170 } |
135 { 125 } |
135 { 125 } |
135 { 125 } |
-- |
その他の床 (束立床) |
135 { 125 } |
135 { 125 } |
135 { 125 } |
90 { 80 } |
80 { 90 } |
-- |
土間床外周部 |
140 |
140 |
70 |
70 |
70 |
-- |
窓 (代表的な仕様) |
二重(材質不問) 単板+複層 一重(木orプラ) 低放射複層 |
二重(木orプラ) 単板 一重(アルミ遮熱)複層 |
一重(材質不問)複層 |
注:詳細は(財)住宅・建築省エネルギー機構発行『住宅の次世代省エネルギー基準と指針』参照
例えば私たちの事務所のある場所はIV地域。もしここに在来木造でB仕様基準を満たした省エネ等級4の家を建てようとすると、屋根に断熱材を185ミリ(または天井に160ミリ)、壁90ミリ、基礎立ち上がりにスタイロフォームを70ミリ、窓には複層ガラスが必要というわけです。どうでしょうか? 天井に160ミリや複層ガラスはよいとして、壁に90ミリとすると真壁にしたいときはどうするの? また基礎に70ミリとは外壁やはき出し窓はどんな納まりにするの? なるべく安価な方法を考えたいところです。ちなみにVI地域(沖縄)は床や窓の断熱に基準が設けられていません。これは主に天井からの遮熱を目的としているからです。いずれの地域も屋根断熱は結構な厚さを求められています。関東以西では施工も含めて簡単に済まされることもあるようですが、建物の熱性能を考える上で屋根断熱はとても重要です。
このように省エネ等級では[性能基準]と[仕様基準]の2種類を並列に扱ってきましたが、では[仕様基準]を満たせば[性能基準]にも適合する家ができるのでしょうか? つまりAとBは同等なものなのでしょうか? 答はNoです。なぜなら同じ100m2の家で同じ断熱仕様にしたとしても、お豆腐のように真四角な2階建ての家もあれば、平屋で平面が凸凹して表面積率が高かったり、窓が特別に多かったり…といろんな家があり、それによってQ値は異なるからです。環境に配慮するという本来の目的からすれば[性能基準]で評価する方が適切といえますが、Q値の算出は手間がかかるので便宜を図るために[仕様基準]があった、と考えてよいでしょう。
そして平成27年4月からは、より[性能基準]を満たすことを重視した「外皮平均熱貫流率(Ua値)」が指標になります。用語は変わりますが、単位面積あたりの熱損失量をめやすとする、という考え方は同じです。Ua値についてはいろんなところで解説があるかと思います。詳しくは ex.こちらを参照してください。
http://jutaku.homeskun.com/syouene/2013point.html
デザインガレージ/石原 朋子