暖房のこと

断熱リフォームをした廣谷さんのご自宅(設計/みっつデザイン研究所)
断熱リフォームをした廣谷さんのご自宅(設計/みっつデザイン研究所)

ベストな暖房って?

 

廣:断熱リフォームした自宅(集合住宅の一住戸)は、窓はペアガラスで2重サッシ化したけど、壁の断熱材は羊毛断熱材が50mm程度だし、柱や梁は家の広さの関係上、断熱できなかった。最新の断熱性能というよりも中の上程度の性能。それでも前に比べると格段に暖かくて、小さな電気ストーブなどの局所的な暖房以外は使用しなくても大満足なのだけど、2月などの真冬日が数日続いて、夜間や朝の室温が15℃を下回ると、あとほんの少しだけ家全体が暖かくなるといいな、、と思う日が数日あるの。そんなときにエアコンで暖房をすると、あと少しと思うから、設定温度的には低め(2023℃)くらいで運転するじゃない、そうすると吹出温度がせいぜい30℃とか40℃くらいにしかならないから、その風が体に当たると結局寒く感じるし、風が体にあたるってすごく不快。狭い部屋では風向きを調整しても限界があるしね、、、。

石:気流感ね。

廣:このようなあとほんの少しを足したい時の暖房って、どういう暖房がベストだったのだろうと思って。床暖房って言われることもあるけど、うちはみんないい大人なので、居間で一緒にいる時間が少なくて、個々に部屋に入っていっちゃう。そうすると、自分の部屋なんてベッド置いたら床暖房エリアなんてなくて。

橋:私は個室に床暖房を入れたことはあまりないな。床暖房は部屋全体がおだやかに暖かくなって快適ですよね。

石:うちは床暖房が入ってるけど快適だよ。

※(床暖房:輻射熱を利用した暖房。輻射熱とは、ポカポカな陽だまりや、薪ストーブの暖かさと同じ。直接触れる足も暖かいが、その熱で部屋全体を暖めてくれる。暖まるまでに時間がかかる。その代わり、冷めにくいという特徴もある。掃除の時など少し窓を開け放っても、空気を暖めているわけではないため、急激に室温が下がるということはない。)

廣:床暖房の場合は、つけっぱなしでしょう?

石:そんなことない。

廣:そうなんだ、、、。床暖房=ホットカーペットの印象があって、床暖房エリアからうごけなくなっちゃうみたいな印象があっていまいち魅力を感じられなかった、、、。朝と夜と数時間程度のために、立ち上がりの遅い床暖房や放射暖房っていうのも、うちの家族には過剰設備に感じてしまう。ゆるい暖房を全館で長時間というのは、普段から暖冷房設備をちゃんと使っている家庭なら、断熱改修と合わせて導入すれば省エネ化も可能だけれど、うちのように、前もあまり設備に依存していなくて寒いなりの生活をしていた場合は、増エネになる。原発事故のあとにせっかく電気使用量を減らしたいというミッションでやっているのに、増える方向に行くのはなんか上手くないし、、、。などと考え始めると迷宮入り、、、。戸建ならば太陽熱を利用した暖房システムも考えられるけど、マンションの場合は窓から取り込む日射以外、自然エネルギーは使えないからね、、、。もちろん現状でも大満足で、寒い日はもう1枚衣服を着ればいいだけのことで、とくに不満はないのだけれど、一回良いものを体験しちゃうと、そこなりの課題というのが見えてきて、ここから先、よりよいものを提案するとしたらどうするだろう、、と考えることがあります。

例えば、中程度の断熱性能で、あとは洋服や膝掛けなどでやり過ごす我が家方式のほかに、床暖房やPS(※)などの設備で補完するという方向と、もう一方としては、暖房設備や洋服の追加がほとんどいらない世界、つまり内部で発生する熱と、窓からの太陽の暖かさで済ませられるような断熱性能のある世界(Q値1以下※※)っていうのもあるのかなと感じている。快適で省エネな改修を提案する場合、色々な可能性や方向性を持っていたいな、、と思っていて、みなさんにも聞いてみたい。

※ PS:温冷水を循環させて室温を調整する除湿型放射冷暖房システム

※※Q値:建物の保温性能を示す指標。「Q値」は “熱損失係数”といって、室内外の温度差が1℃の時、家全体から1時間に床面積1㎡ あたりに逃げ出す熱量のこと。関東ではQ値の指標は2.7。西方さんが活躍する東北地域ではQ値の指標は1.9

詳しくはhttp://www.ibec.or.jp/pdf/sjuutaku7.htm

 

石:以前私が勤めていた奥村事務所で設計した1960年代のコンクリート打放しの住宅で、断熱改修したいって話があって。一応外側にスタイロフォームが20mmくらい付いてた。さあどうやるかと考えて、結局木製建具のガラスをスペーシア()に変えた。いろいろ計算してみるとそれがいちばん費用対効果が大きかった。どんな方法が適切かは建物全体の断熱レベルにもよるよね。

※(スペーシア:ペアガラスの間の空気層を真空にしたガラス。ペアの2倍の断熱性がある)

平:真空ガラスのスペーシアは結露対策にも有効です。窓の結露に困ったら、ペアガラスではなくて真空ガラスにした方が結露は無くなるようですよ。

 

西原の家(設計/スモールスペース)OMソーラーの家。右奥は石油ストーブ
西原の家(設計/スモールスペース)OMソーラーの家。右奥は石油ストーブ

暖房は建築全体で考えるべきもの

 

石:立ち上がりの速さは結構重要で、断熱の良さとか、それこそOMソーラー()みたいなもので家全体が基本的に冷えきっていないとかが大切と思う。寒い地域の人に喜ばれるのが、OMを入れてあると、暖房をつけるとすぐに暖かくなりますって。今までは暖まるまでが大変だったから。「あとちょっと」っていうのを効果的に使うという意味では、それでもいい。ただ床暖で全体を暖められるのかって話はあるけどね。直接肌に触れる物だとそんなに温度は上げられないから、やっぱり限界がある。熱くて40度になんかできない。それでもアクアレイヤー(※※)の前田さんは、OMのことを「これまで設備として考えられていた冷暖房を『建築』として捉えられるようにしたことが画期的。設備だと何㎡に設置してどれくらいの効果があるかという話ばかりになるから」と。

※(OMソーラー:太陽熱で暖められた屋根部分の空気を1階の床下まで運んで吹出す暖房)

※※(アクアレイヤー:株式会社イゼナが開発販売している水蓄熱床暖房。温水パックを床に敷設。太陽熱利用と自然対流による床暖)

 

石:集合住宅の場合、下が住んでいるかは大きいよね。

内:上下と横に人が住んでいるのは違う。

廣:そんなに違う?ずっと角部屋で生活してるから解らない、、、。

全:全然違う。

石:以前住んでいたマンションは下に誰も住んでいなくて、長く留守にして帰ってきたときなんて冷えきってた。

平:エネルギーのことだけ考えたら、集合住宅の方がかなり効率的だよね。

 

 

(設計/みっつデザイン研究所)PS電気ヒーター 窓からの冷気を防ぐ。既存サッシのガラスを真空ペアガラスに変えて、さらに内側に木製建具をいれた断熱改修
(設計/みっつデザイン研究所)PS電気ヒーター 窓からの冷気を防ぐ。既存サッシのガラスを真空ペアガラスに変えて、さらに内側に木製建具をいれた断熱改修

具体的な暖房の話し

 

内:集合住宅の改修の場合って床暖房以外で考えられる快適な暖房ってありますか?

廣石:あんまり種類は無いんじゃないかな。

橋:エアコンとか、床暖房とか、PSとか。空調にかけられる予算にもよるけど。

内:PSは電気容量が大きいから、リフォームの場合は容量に限りがあるから難しいんじゃないかな。

廣:今はヒートポンプ式になっているからいけるよ。

橋:50Aとか60Aではダメなの?

(補足:後日調べたところ、PSの電気容量は大きめのエアコン並みになっているようです)

廣:自宅は30Aでマンション全体の容量が一杯になっているから、増やしちゃいけないことになってた。古いマンションの場合は、そのあたりの確認も必要だね。

内:PSは夏も気持ちが良いですもんね。

廣:あとは室外機がいるから、それを置く場所が必要だよね。

内:そうですよね。あとドレイン配管の問題も。金額が合えば、PSはいいですよね。

廣:改修前が部分的で短い時間のみの暖房だった場合は、全館暖房で使用時間が長くなるからランニングコストの試算もしておいた方がいいね。でも快適化の追求の方向性にはすごくいいと思う。

父と母の家(設計/ウチアトリエ) 低温式床暖房うららを敷設 スケルトンリフォームで断熱も強化 右側は断熱障子
父と母の家(設計/ウチアトリエ) 低温式床暖房うららを敷設 スケルトンリフォームで断熱も強化 右側は断熱障子

内:2年前にマンションの一住戸の改修をしたんですけど、その際に低温水式床暖房のうらら()を入れました。ご高齢のご夫妻の家で、家に居らっしゃる暮らしをしているので、LDKだけではなく、トイレ、脱衣、主寝室も床暖房を敷設し、温度差が起こらないようにしています。この床暖房は、放熱効率の高い太めの銅管で低温水を流し、放熱板なんかも工夫してあるタイプです。熱源は電気のヒートポンプにしました。ランニングコストはなかなか良いという話しを聞いています。

橋:普通の床暖房に比べて、最初にかかる工事費はどうなの?

内:少し高いです。

廣:電熱線の床暖房は工事費が安いから採用している人も多いよね。

橋:厚みが薄くてすむのはいいよね。と言いながら電熱線の床暖房は使ったことないけど。

石:メンテナンスが楽だよね。

花水木の家(設計/ウチアトリエ) 電熱線埋設式の湿式床暖房。フローリングは湿式床暖房と相性の良いコルクを採用。右上が吹抜。空間の繋がりと共に、暗い1階まで光を落とす。
花水木の家(設計/ウチアトリエ) 電熱線埋設式の湿式床暖房。フローリングは湿式床暖房と相性の良いコルクを採用。右上が吹抜。空間の繋がりと共に、暗い1階まで光を落とす。

内:戸建て住宅の計画で、どうしても工事費を抑える必要があって、電熱線をコンクリートの中に埋める設計をした事があります。コンクリートに蓄熱させて、一度温まったら、冷めにくいような計画にしました。こちらは若夫婦の家で、子供達の気配を感じられるように、個室で仕切るのではなく、家全体が吹抜けなどで緩やかに繋がっている空間にしました。そうなると、輻射暖房にする必要があります。そうでないと、寒くて仕方がない。奥様が専業主婦であること、家族の生活、コスト条件によって、プランと暖房方式が決まりました。

平:私は、戸建て住宅でどの床暖房を採用しようかという時にコスト面での違いを比較してみたことがあるのですが(イニシャルとランニングを同じ条件でシミュレーションしてもらった)、その時は予想外にガスの温水式床暖房が一番安かったです。その他は深夜電力利用の蓄熱式床暖房、同じくあとは深夜電力利用の土壌に蓄熱するタイプでした。その時々で工事代も変わりますし、燃料代も情勢により変わるので今がそうとは限らないけど、お願いするとメーカーの方でシミュレーションしてくれます。

Q値1以下の世界

 

廣:なかなか実現は難しいかもしれないけれど、西方里見さん(※)という東北の建築家の方が取り組んでいるQ値を1以下にする、つまり熱がほとんど逃げない家を作って、ヒートポンプ式のエアコンで床暖房っていう手法があるらしい。

※(西方里見さん:著書「プロとして恥をかかないためのゼロエネルギー住宅のつくりかた」)

橋:Q値1以下というと、ちょっと暖めると逃げない。

廣:普通の程度の断熱性能の家では、エアコンみたいな吹き出し温度では床暖房なんてなかなかできないと思う。エアコンで床暖ができるなら、工事費もメンテも1番コストがかからない気がする。一方の究極の世界という意味で興味がある。

石:ちょっとよくわからないけど、Q値1以下ってあり得るの?

全:一度体験してみたいね。どういう世界なのか

※(Q値1以下の家についての補足:ヨーロッパなど世界の基準を参考にしており、日本で求められている基準以上の断熱性能をもつ家のこと。ただし夏についても抜群の保温効果を発揮するため、窓からの日射を室内に入れない万全の日射遮蔽の工夫と、室内の熱気をスムーズに排出できるような風通しの計画がないと室内が暑くなる。また寒冷地の技術で東京などの温暖地エリアでは過剰だという考えもあります。)

 

 

断熱材の肝は施工技術

 

廣:あとね、断熱にはもっと微妙な施工の技術での差があるみたいで。

内:そうですよね。入れて隙間が出たら本当に意味ないですよね。

石:断熱材って何かもう少し簡単で確実にならないものかな。

廣:北海道の人達って、断熱に対して苦労してきた歴史があるので、すごく熱心に研究したりお互いに勉強会をしたりしていて、その人たちが辿り着いているのは実はグラスウールを使った断熱らしい、、、。ただし重要なのは施工の仕方なのだそう。

石:密度が高いのがいいわけじゃない。空気含有量が多い、つまり10Kとか16K/㎥の方が性能いいはずだもん。でも重い方が確実に施工できるから重いものを使う。

廣:グラスウールって安価で性能もいいんだけど、湿気を含むと性能が落ちる、隙間が空きやすいということが課題でもあるんだよね。だから湿気なくて隙間が空きにくい製品(ウレタンボードなど)や、湿気ても性能が落ちない製品(羊毛、セルロースファイバーなど)などがあるよね。これらはとくに気を使わなくてもそこそこの性能が確保できる、、という意味で重要だけど、グラスウールでも性能を確保できるような施工をきちんとすれば費用対効果はかなり良いらしい。技術のある施工会社があってこそのことだけどね。北海道のシンポジウムで、築2030年の解体した建物の壁の中の写真を見せてくれたことがあるの。それがほとんど竣工時と見分けがつかないくらい壁の中が綺麗なの。「グラスウールに染み一つありません。今の北海道の施工レベルはこれくらいです」って言われて、北海道とは気候条件が違うので、単純に比較したり技術を持ち込む必要はないかもしれないけど、会場からは、すごい!といった感嘆の声が聞こえたのが印象的だった。

全:それは興味深いね。

参考

PS冷暖房システム/ピーエス http://www.ps-group.co.jp/pscompany/index.html

OMソーラー/ https://omsolar.jp/system.html

アクアレイヤー/IZENA http://www.izena.co.jp/aqualayer_site/index.html

うらら/富士環境システム http://www.fek.jp/p03.asp