家具の金額
石 : 知り合いから「今度新しくオープンする施設の家具を選んでほしい」と言われて、ある家具メーカーのカタログを取り寄せて代理店の人に話を聞いたら、そこはデザイナーと組んでオリジナル家具をつくったりもしてて、結構安くて、デザインもよくて、色や数も対応できて、しかも椅子一脚からでも対応してくれる。普段住宅の設計をしてると家具の選択肢って木曽三岳(奥村設計所)(※1)やハンス・ウェグナーみたいなデザイナーものか、デパートの家具売場かIKEAかみたいになりがちだけど、施設だと数が多くて高い家具は揃えられないし、だけど量販店の家具もちょっと…と。
で、その時にいい感じの家具が手軽な価格で大量に手に入るルートを知ったの。脚の長さとか細やかに対応してくれて、これまでの自分の知らない世界だった。
みんな : へぇー、そうなんだー。 (みんなでその家具メーカーHPを眺める)
廣 : 安い高いっていうのはどのくらいのことを言うの?
石 : 例えば「木曽三岳」の椅子なら、一脚10万円くらい。
廣 : 「IKEA」(※2)とか「無印良品」(※3)とかなら?
石 : 1万円くらいか、それ以下でもあるよね。
廣 : それがその家具メーカーだと?
石 : モノによるけど、一脚2万円とか、3万円とか。それに色とかサイズとかきめ細かく対応してくれる。
みんな : これなら現実的だね。
石 : 一般ユーザーがなかなかアクセスしないところだけど、こんな買い方があるんだなと思って。その後も紹介で家具を選んでほしいという話は結構あって。
橋 : その家具を選ぶ仕事はどんなきっかけで関わることになったの?
石 : 既存建物を老人福祉施設にリニューアルする仕事をした時に六角形が2つに分かれるテーブルをつくったのね。六角形のまま使うとそれぞれの辺に1人ずつ座って6人座れて、横に並べると細長いテーブルとしても使えて、大きな輪にすることもできる。これに高さ調節できる脚をつけた。
内 : これいいですね。
みんな :すごくいいー。すごいアイディア。
石 : これが評判よくて、施設を見学に来た人から「同じ物をつくってほしい」という話がポツポツ来て、そこから話が展開して、新規オープンする施設全体の家具の相談に乗ってほしい、と。家具を選ぶだけの仕事だけど、設計者だと建築をわかった上で提案するせいかとても喜ばれて、こんな需要もあるんだなと。
廣 : 建物の設計とはまた違った「目利き」の仕事という感じかな。
みんな : そうだね。
空間の使い方、家具の配置
廣 : 話が家具からずれるけど、「目利き」といえば、(賃貸物件の)部屋選びも専門家がやると違うじゃない?この(内さんの)事務所すごくいいよね。
平 : そうだよね。どうにかしようがあるかどうかの判断とか、どうやって使うかとか。
橋 : みんなは自分の設計した家では、家具を選んだりアドバイスしたりするの?私は家具まで提案することも多いけど。
石 : 予算によってなかなか。お施主さんの考えている家具の値段と、私たち(設計者)が考えている家具の値段には大分違いがある場合が多くて・・・
廣 : それに、今持っている家具を処分するっていうのもなかなか。まだ使えるとか、もったいないとか。
平 : 家具を提案して入れていただいた家もあるけど、もともと持っていた家具を使う場合が多いかな。
廣 : 家具を提案する理由って何なのかな? 設計中に家具もイメージしながら設計してるってこと?
橋 : 建てる前に、既に長く使いたい家具を持っている方もいるので、必ずしもいつも家具を提案するわけではないけど、これまでに設計した家では新築時にテーブルや椅子などの置き家具を購入した家が多かったかな。でも置き家具を含めて考えてもらえるように、私がいいと思っている椅子やテーブルなどを置いて使ってもらっているというのはある。最初の予算の中にそれも含めて考えておく。
廣 : ちゃんと最初から予算に家具も含めておくのか。
橋 : この内さんの事務所もこの家具を含めた雰囲気で、来た方に家具も含めた空間のイメージをもってもらいやすそうだよね。
内 : 家具も含めて提案できればというのはあります。
廣 : でも全体予算に家具を含めて考えるってことは、建物の予算を削ってしまうってことでしょ。そのあたりの葛藤はあるの?
内 : 全体の予算の中でそれぞれが丁度良いバランスになる事を考えているから、何かを削ってまでというのは無いけれど、そのバランスの取り方は日々葛藤してます。私は住宅の質における家具のウェイトが大きい方だと思う。
橋 : 家具も含めて住宅という感じかな。予算によって無理な場合もあるけど。
石 : 家具まで考えることに価値がある、ということを施主に伝えられれば、家具に費用をかけよう、となるよね。
橋 : 設計者が置き家具を選んだり設計したりすると思っていない方もいるみたいだけど、新しく購入する場合は、相談してもらえれば、住まい手の要望やその家に合うものを提案させていただきたい、と私は思ってます。

住宅設計と家具
内 : 私はこの賃貸物件(現在のウチアトリエの事務所)を初めて見た後、不動産屋に部屋のプランをもらって、その上に家具のレイアウトを書き込んで、これで決まり!って思った。30分程で即決(笑)
廣 : 普通の人にはなかなかそれはむずかしいよね。だから部屋選びのアドバイスと家具選びやレイアウトをセットで提案できるとおもしろいかも。
石 : 困っている人はいるよね、きっと。
廣 : 最近自分の部屋を模様替えして。事前に母に口で説明した時には全然通じなくて、「えーなんで?」って感じだったんだけど、終わってみれば「なるほど、いいわね」って。なかなか想像つかないんだろうね。私たちは空間をイメージすることが習慣になってるから何の苦もないけど、一般の人にとっては難しいことなんだよね。女性ということで家事の動線も理解しながら空間の使い方を提案する、今後はそんなことも提案していけたらいいかも。
どんな家具を選んでる?
廣 : いつもよく使っている定番の家具っていうのはどうやって決まるの?
橋 : いろんな家具を自分で実際に使ってみたり、まめにお店を見てまわったりしてる。見た目はよかったけど何年か使ってみたらよくないところがわかってくる場合もあるしね。

橋 : どこの家具が好きとかありますか。
内 : 私はハンス・J・ウェグナー(※4)の家具が好きです。
廣 : 自宅で「Yチェア(ウェグナー)」を入れたんだけど、家族には腰が痛いとか言われたりして(笑)。私にはベストなんだけどなぁ。
平 : 人によって体型とか体格とか違うからね。
橋 : 私はこのアトリエにあるその椅子(木曽アルテック社(※5)の「クルミチェア」)は何度か自分が設計した家に入れたことがある。自分の事務所でも使ってるし。
内 : 今日はまだ間に合ってないけど、「TRUCK」(※6)の椅子を注文していてもうすぐ届く予定なの。
橋 : そうやって気に入った家具を事務所に来た人に座って体験してもらえるのはいいよね。
家具にこだわることって
廣 : 値段の高い家具と「IKEA」とかの安い家具って何が違うんだろう?あの安さとクオリティを考えると凄いよね。
石 : すごく合理的にできてるよ。
内 : モノはどうかわからないけど、安いからとりあえず買っちゃって、短期間でゴミ置場に置かれている場面を想像してしまう。その買い方自体がよくないし、愛着もわかないんじゃないかな。
石 : 賃貸だとその時々で引っ越せば必要なものが変わる、というのもあるし。
みんな : そうだね、それはあるよね。
廣 : 新築とかリフォームした時なら、今後もずっと使う家具をこだわって買うだろうね。でもこの内さんの事務所みたいに賃貸だってちょっと家具を工夫するだけですごくイメージが変わるわけで、そういうことを伝えていけたらいいな。
内 : 椅子とか置き家具は引っ越した先でも使えるわけだから、ずっと愛用できるものを買った方がいいよね。造り付けはなかなか難しいけど、この事務所の棚は引っ越す時にも解体してまた次で使えるようになってます。
私自身は小さな家でも愛着の持てる家具、使い勝手の良い家具に囲まれて暮らすと、そこは居心地のいい場になると感じているんだけど、この間ある設計者に「それは家具づくりであって建築じゃない。建築家の仕事ではない。」って言われたの。建築(家)の定義は迷宮入りしそうな難題ではあるけれど、もしそうだとしたら、むしろ住宅は建築である必要がないと私は思ってしまって・・・
廣 : 私は家具の話でいくと、いい家具との生活がどんな幸せをもたらすかが自分でしっかり説明ができないから、情熱を持ってお客さまに薦められない。でも温熱環境性能に対しては、いい性能の家はこんな生活ができるとか、こんなところに幸せを感じる、と伝えられるからかなりこだわりがある。例えば窓は単層ガラスでもいい考えの人とは、生活の質をデザインするという点で一緒に仕事をするのが難しいかも。
橋 : まぁそれはどっちかしか選べないわけではないから、両方が成り立つように考えているけどね。家具までこだわってつくっている家だからといって断熱性能を削っていることはないけどな。家具も断熱性能もどっちも大事。家全体の中でコスト調整するところは他にもたくさんあるわけだから。
廣 : そうだね、両方ちゃんとできることが目標だけど、私の中では断熱性能がしっかりしてて夏涼しく冬暖かいことに予算を確保して工事費が上限になってしまったら、持っている家具や安い家具を使うことになっても許せるかな。それでも幸せな生活ができると思ってるから。人によってその価値観の違いがあるね。
石 : 私なんかペラペラの家でも平気だな〜テントでもいいぐらいだもん (笑)
みんな : えぇー、この中でいちばん環境の人なのにー (笑)
廣 : 私は寒い家絶対ダメだなぁ。
内 : 予算がかなり厳しくて、どちらかしかできないとしたら、という話ですよね。
廣 : そうそう。何か正解があるわけではなくて、私たちは提案する立場だから、自分の中に体験に基づく確固たる信念があってそれをオススメしてるんだよね。何に幸せを感じるか、どんな暮らしをいいと思っているかということだから、こうやってみんなの話を聞いていると人それぞれでおもしろい。
平 : 興味があることや好きなことじゃないとよくわからないっていうのもあるし。興味がないことだと、どっちでもいいということになってしまいやすい。どっちでもいいと思ってしまうことなら、自分がそこに関わる意味はなくなってしまう。
廣 : だからみんなでこんな話をしながら、自分の中ではこれまで見つけられなかった興味の対象が増えていく感じがとてもおもしろいと思って。今回の家具の話とか、前にやった緑の話とかも。
みんな : そうだね。
・造り付け家具

内 : 家具の話でいうと、置き家具(固定しない家具。椅子や机など)も大切だけど、造り付け家具(固定してある家具。調理台や戸棚など)もとても大事だと思っていて。設え、モノ達がおさまる丁度良い場所を作るとか、季節ものや花を飾る場を作るとか、それが日々の使い易さや楽しさにもつながるから、大事にしてる。ただ、家具が増えるとその分費用もかかるから、予算によっては提案できないという苦しみもあるんだけどね。
橋 : 造り付け家具が多くなると費用もかかってしまうよね。平間さんはどうしてるの?
平 : 私はそんなに細かいところまでつくり込むことは少ないかな。全体の予算のこともあるし。どっちかというと(使い方を)細かく計算しつくして作るより、ざっくりとおおまかにつくる方が好き。この部屋にどのくらいのボリュームであるのがいいか、とかは考えたいけど、その中が細かくどうなっているのかとかは使う人の好みでどうぞという感じが多いかな。家のすべて(のデザイン)に力が入っていると住む方も息が抜けない感じがする。気が抜けるところがほしいというか。
廣 : 通販の家具とかでも使い勝手や機能面がいいものはあるよね。それを超えるものを数倍の値段で提案することがなかなか難しいのだけど、みんなは既製品の家具についてどう思っているの?
橋 : メーカーの比較的安いキッチンとかでも、最近はシンプルで結構いいものがあるね。
平 : あまり見えないところとか部分的には既製品を使いながら、そのまわりを造り付けでつくることもある。
橋 : 住まい手の要望とか予算によって、使いわければいいんじゃないかな。
内 : でも極端な話しだけど、メーカーの既製品とか規格品でもいいよねってなると、行き着く先は住宅を設計する人はいらなくなっちゃうね(笑)
みんな : (笑)
平 : でもやっぱりなんか違うよ。そんなことない。
内 : そうだよね。
石 : なんか違うよね。私はルイス・カーン(という建築家)が好きで、彼の建築は設えが細かいわけじゃないけど、人が自然に集まる場所、なんとなく居心地のよい場所・・・場所のつくり方がすごく上手い。設えも大切ながら、私は建築そのものでもそんな場所づくり、空間づくりができたらいいと思ってる。つまり気に入った既製品をうまく組み合わせればよい建築になるかというとそんなことはなくて、やっぱりそれだけじゃない要素が設計にはあると思う。
それにしてもこうして話してみると、人によっておもしろがり方がいろいろなのがよくわかるね!
2013年7月25日 @ウチアトリエ
参考 : 話題に出ていた家具店やメーカーについては下記のリンクをどうぞ。
※1、木曽三岳奥村設計所(現社名:KAJART)http://www.quiet.co.jp/
※2、IKEA http://www.ikea.com/jp/ja/
※3、無印良品 http://www.muji.net/
※4、Yチェア(ハンス・J・ウェグナー)http://www.carlhansen.jp/
※5、木曽アルテック社 http://www.kiso-artech.co.jp/
※6、TRUCK http://truck-furniture.co.jp/